コンタクトレンズは角膜の上に直接レンズをのせて視力矯正を行う高度管理医療機器です。その中でも不具合が生じれば生命の危険や健康へ影響を及ぼすリスクが高いクラスⅢに分類されています。
つまり使い方を誤れば眼障害を引き起こすことになってしまいます。また時によっては正しい使い方をしていても様々な諸条件が重なり、眼障害を引き起こすことすらあるわけです。
本来、装用時間やケアを厳守して使用すれば安心して装用できるコンタクトレンズですが、眼障害等のトラブルが発生しているのも事実です。以下にトラブルを引き起こす行為の実例をいくつかご紹介します。
●汚れた手でレンズを取り扱う。
●装用時間を守らない。
●装用したまま睡眠をとる。
●急激に装用時間を増やす。
●ケア(消毒、洗浄など)を怠る。
●誤ったケアをする。
●破損したレンズを装用する。
●使用期限の切れた使い捨てコンタクトを装用する。
●汚れたレンズケースを使用する。
●友人とコンタクトレンズの貸し借りをする。
では上記のような行為をすることによって引き起こされるよくありがちな眼障害にはどのようなものがあるのでしょうか?
角膜血管新生とはどのような症状ですか?
角膜上の酸素
人間の体は全ての場所で生きていくための呼吸をしています。角膜も同様です。角膜と言うところは血管組織がない場所なので大気中の酸素や涙液中に溶け込んでいる酸素をもらって呼吸をしているのです。
ところが私たちは睡眠を取るときに瞼を閉じます。そうすれば大気中の酸素は遮断され、まばたきをしないために涙液量も減少します。その結果、まぶたを開いている時に比較して、酸素の供給量は約3分の1に低下すると言われています。
コンタクトレンズを装用するということ
角膜の上には何ものっていないのが本来の姿です。その上にどのように優れた素材であるとはいえ、異物をのせるのです。酸素の供給量が大幅に減少するのは自然の理と言えます。
人間の体の一部である以上、酸素の供給量が減少し、その度が過ぎてしまえば、様々な障害が発生してきます。だから障害が発生しないようコンタクトレンズを装用するに当たっては、目が慣れるまでの装用スケジュールや1日のおおよその装用時間などの遵守事項があるわけです。
上記に記載した通り角膜と言うところは血管組織がない場所なので大気中の酸素や涙液中に溶け込んでいる酸素をもらって呼吸をしています。ところがコンタクトレンズと言う異物が長時間に渡り角膜上を覆うことにより大気中の酸素が取り込めなくなり、またコンタクトレンズの乾燥に伴い角膜も乾燥してくると涙液中の酸素も供給が遮断されてしまいます。
そのため結膜(白目)にある血管を角膜に伸ばすことで、その血液中から酸素を取り入れようとする防衛反応が働くわけです。それにより本来、血管組織のない角膜に血管が侵入してくることになるのです。これが角膜の血管新生です。
血管新生は自覚症状がない
血管新生がやっかいなのは自覚症状がないということなのです。血管が角膜に侵入してきたからと言って痛いわけでもでないし、充血がひどくなるわけでもありません。
外から見た印象では何か問題が起きているようには見えないのです。つまりこれらの症状は自分ではわからないので、眼科での定期検査などでチェックするしかないのです。
血管新生は急激になる症状ではない
この血管新生と言う症状は、通常急激に引き起こされる症状ではありません。永年の無理な装用の仕方が原因で、慢性化した酸素不足によって引き起こされます。
裏を返せば血管新生になってからレンズの装用を中止したり、時間を減らしてもすぐに改善されないということです。永年掛けて出てきた症状は元に戻るまでにもそれなりの時間を要するということなのです。
ハードコンタクトには血管新生はない
実は血管新生はハードコンタクトユーザーには見かけない症状なのです。つまりソフトコンタクトレンズユーザーの典型的な症状の一つと言えます。
ソフトコンタクトはご承知の通り、直径14.0~14.5mmで角膜をすっぽり覆い、且つレンズの特性上、あまり大きな動きのないレンズです。
しかしハードコンタクトは、8.5~9.0mm前後、角膜径よりも小さなレンズなのです。つまりハードコンタクトは角膜上にのせても、何ものっていない部分が常にあるわけです。そしてハードコンタクトは角膜の上を瞬くするたびに動くように作られています。動けば動くたびに酸素を含んだ新鮮な涙が頻繁に循環します。
従ってハードコンタクトの場合は、ソフトコンタクトを長時間装用した場合に見られるような酸素不足の状態には陥らないのです。また最近のハードコンタクトは一昔前のハードコンタクトと比較すると素材的にもかなりの酸素透過性があります。
長時間装用をするのなら酸素透過性ハードコンタクトを推奨する眼科の先生が多いのもそのためです。また血管新生と診断された人がハードコンタクトへの変更を薦められるのも頷ける話なのです。
血管新生と指摘されたことがあるのなら
過去の定期検査などで、血管新生があるような指摘を言われたことがあるという人は、まずはメガネとの併用を意識して、装用時間を減らすことが肝心です。
睡眠中には誰もが酸素不足になっていることは最初の方に述べました。ですから朝起きた時、レンズをはずして寝る時、目にたっぷりと酸素を与えてからレンズを入れるように心掛けましょう。
血管新生があるということは、少なからず酸素不足の状態にあるということ、それはすなわち健康的な状態ではないということです。健康な状態ではないということは傷が付きやすかったり、菌に感染しやすいと言うことでもあるわけです。
従って調子が悪い、ゴロゴロする、充血がいつもより多い等の自覚症状があった場合は、早め早めに眼科を受診するように心掛けてくださいね。
角膜浮腫とはどのような症状ですか?
コンタクトレンズを長時間装用することによって起こります。コンタクトレンズの長時間装用により角膜の表面が酸素不足になると、角膜の一番表面にある上皮細胞が代謝障害を起こします。すると乳酸が蓄積され、角膜表面がむくみを起こすのです。
角膜は無色透明の無血管組織です。ところが浮腫状態になると角膜の水分量が増えて目のかすんで見えたり、眩しさを感じたりします。誰もが経験した事の有るわかりやす例えで言うのなら、指に絆創膏等を長期間まいてはずすと、指の表面が白くぷよぷよになりむくみますね。あれがいわゆる浮腫の状態です。
ただ自覚症状を感じるくらいになると角膜の上皮細胞も脆くなっているため、とても傷つきやす状態になっているので注意が必要です。無理な装用を続けると角膜上皮剥離を引き起こす可能性があります。そうなるとかなり強い痛みを自覚しますので要注意です。
点状表層角膜症とはどのような症状ですか?
角膜の表面は、目を守るために知覚的に非常に敏感でできています。この角膜の一番上の表面(上皮)の部分に浅い傷ができた状態を点状表層角膜症といいます。
傷自体はすり傷のようなものですが、知覚が発達しているので軽いや充血や痛みをともない涙が出てきます。主な原因としてはドライアイやコンタクトレンズの不適切な装用が挙げられます。
通常は、人口涙液や角膜保護剤など点眼を行い、原因さえ十分に取り除くことができれば、数日で治癒するのが普通です。勿論コンタクトレンズに原因があるとすれば装用は中止しなくてはなりません。
角膜びらんとは?
点状表層角膜症が角膜上皮の浅い傷だとしたら、角膜びらんは角膜上皮の一部が剥がれてしまっている状態です。こうなると痛みも強くなり、涙があふれてきます。
充血をともない、異物感のためにしばしば目があけられなくなることもあります。原因は外からの異物やさかさまつげなどの機械的刺激、コンタクトレンズの不適切装用、目の病気からくるものや場合によってはからだの病気からくるものもあります。
治療は原因によってことなりますが、角膜保護剤や感染予防のための抗生物質の点眼が行なわれます。原因さえ十分に取り除くことができれば、数日で治癒するのが一般的です。
角膜潰瘍とはどのような症状ですか?
角膜表面の傷が上皮だけでなく、実質にも影響が及ぶものを角膜潰瘍といいます。治った後も視力障害が残る可能性があります。原因は外傷やヘルペス、細菌、真菌(カビ)、アメーバなどによる感染が主たるもので、激しい痛みや充血を伴います。
コンタクトレンズの不適切な装用を繰り返すと、角膜の上皮や実質の一部がはがれ落ちたりなどの傷が付きます。そうすると目のバリア機能が低下します。そのような状態の時に正しい方法でケアの行われていないレンズや、使用期限を過ぎた使い捨てコンタクト等を装用すると細菌やカビ、アカントアメーバに感染しやすくなってしまうのです。
特にソフトコンタクトはそのような不具合を感じにくく、無理な装用をする人が多いので重篤な症状になってから慌ててしまうのです。感染を伴った角膜潰瘍の多くは、ソフトコンタクトレンズ装用者に多く見られるのはそのためです。
角膜潰瘍は上記の点状表層角膜症や角膜びらんと比較すると重篤な症状です。感染を伴った角膜潰瘍の治療としては抗生物質や抗真菌薬の内服薬、点眼m眼軟膏、結膜下注射などが使用されます。
巨大乳頭結膜炎の症状と原因を教えて下さい?
巨大乳頭結膜炎とは、アレルギー性結膜炎の一種ですが、コンタクトレンズが原因となって、それもソフトコンタクトが原因となって発症することが多い結膜炎です。
主な原因は?
では原因は何なのでしょう?通常のアレルギー性の結膜炎の原因は花粉症とかハウスダストなどが思い浮かびますが、この巨大乳頭結膜炎の原因で多いのがコンタクトレンズに付着したタンパク質などの汚れなのです。
つまりコンタクトレンズの汚れがアレルゲンとなり様々な症状が出てくると言うわけです。長期装用型のソフトコンタクトが主流であった時代には巨大乳頭結膜炎はもっと目立っていたのです。定期的に交換したり、毎日交換する使い捨てコンタクトが主流となった今では、巨大乳頭結膜炎になる人は大幅に減少したのではないでしょうか?
主な症状は?
結膜とはまぶたをまくった裏側の部分ですが、読んで字のごとくそのまぶたの裏側の部分に白っぽい突起(巨大乳頭)がギッシリ出来てしまうのです。その症状が出てくるとその突起にレンズが引っ掛かり、瞬きのたびにレンズが上に引っ張り上げられてしまいます。
またその突起からは分泌物が出てきますので、レンズの劣化が早くなります。そして劣化したレンズを装用することにより、その症状がさらに悪化すると言う悪循環に陥ります。
ですからそのような症状を感じると言う人は、まずレンズの装用を中止し眼科に検査に行くことをおススメいたします。
その上で眼科で相談をしてハードコンタクトやワンデータイプのレンズにすることをおススメいたします。
角膜内皮細胞とは?
人の角膜の構造
人間の角膜は5つの層で作られています。
一番上に角膜上皮、2番目にボーマン膜、3番目に実質、4番目にデスメ膜、そして一番内側の5番目に角膜内皮細胞があります。
先に説明した点状表層角膜症や角膜びらんは1地番上にある角膜上皮の障害です。キズの程度で言うなら比較的浅くて軽い傷と言えます。従って順調に点眼をしていれば数日で治癒する症状と言えます。
これが角膜潰瘍となると角膜上皮だけでは済まず、実質にも及ぶいわゆる深いキズなので、治癒したとしても角膜の白濁や視力障害が残る可能性があるのです。
私たちの体のキズと同様、キズの程度が浅ければキレイに跡形もなく治癒しますが、深いキズは完治してもアザになって残ったり、キズ跡として残ったりします。
では角膜内皮細胞に関して説明していきます
角膜内皮細胞のはたらきは?
角膜内皮細胞は、角膜の一番内側にある細胞で角膜の呼吸や代謝を担っています。血管新生の部分でも説明していますが、角膜は本来血管組織のない無色透明な膜です。その角膜の透明性を維持しているのが角膜内皮細胞です。
この内皮細胞は、ハチの巣のようにある程度大きさが均一で、キレイに配列しています。おおよそ1ミリ平方あたり2500個~3000個程あると言われています。
角膜内皮細胞が減少するとどうなる?
内皮細胞は、加齢とともに減少し、一度減少したものは再生しないことがわかっています。ところがコンタクトレンズの長期装用者の中には年齢がまだ若いにも関わらず、内皮細胞の減少が著しい人がいるのです。
これはコンタクトレンズの長時間使用による角膜の酸素不足が原因です。
1ミリ平方あたり2000個以下になるとコンタクトレンズの装用を控えることを考えなければなりません。
もしさらに悪化し、1000個を下回るようになると、透明な角膜の白濁が始まり、500個を下回ると水疱性角膜症となり、角膜移植でしか透明な角膜を取り戻すことができなってしまうのです。
そこまで悪化するケースは稀ではありますから、なかなか自身の事として考えられないかもしれません。
しかし皆さんも白内障という病気は身近な病気としてよく耳にすると思います。白内障は加齢とともに目の中にある水晶体と言うレンズが白く濁ってくる病気です。進行すると手術でをそれを取りだし、眼内レンズを入れるのが一般的です。現在その手術も短時間で、簡単な手術と言われており、多くの人が受けています。
しかしその手術の際にも角膜内皮細胞が数百個レベルで減少するのです。つまり、コンタクトレンズの無理な装用が原因で、既に内皮細胞が減少し、危険レベルまでに達していたとしたら、その手術自体を受けることができないということになってしまうのです。
角膜内皮細胞の検査
角膜内皮細胞は減少していても自覚症状はありませんので、半年に1度位は検査をしておいた方がいいかもしれませんね。検査にはスペキュラマイクロスコープという機械を使用しますが、全ての眼科でこの検査機器があるかと言うとそう言う訳ではありません。またコンタクトレンズを作成する際にルーチンで行わなくてはならない検査と言うわけでもありません。
特にコンタクトレンズ販売店とタイアップしている眼科ではスペキュラマイクロスコープは設置していない方が多いかもしれませんね。ですからもし角膜内皮細胞の検査の受診希望があるのであれば、予め問い合わせておくことをおススメ致します。
また角膜内皮細胞数の検査は通常、保険適応外になっており白内障手術や角膜手術の際には保険適応になります。従って例えば、長期的にコンタクトレンズを使用して、角膜浮腫を起こし、そろそろ、コンタクトレンズをやめた方が良いですよ、と患者様に説明する為に。角膜内皮細胞を測定しても、保険適応にはならないということです。
従って保険適応のない角膜内皮細胞検査のみ自費扱いで検査を受診することになりますので、予め検査代金も確認しておくことをおススメ致します。
まとめ
最近のコンタクトレンズの性能は一昔前と比較すると、薄型で、含水率が高く、またシリコーンハイドロゲル素材のように酸素透過性のかなり高い素材を採用しているレンズも増えてきています。また長期装用型より使い捨てコンタクトが主流になりました。そのことにより安全性は確実に高くなりました。
しかし目の上に異物をのせることに変わりはありません。
無茶な装用をするとすぐに目に出てくる症状もあれば、中期的または長期的な無理が重なり徐々に出てくる症状もあるのです。
角膜内皮細胞のように一度死んでしまうと取り返しのつかない障害もあるので、そうならないよう、無理な装用には十分注意して、メガネとの併用を心掛けるようにしましょう。
使い方を誤らなければ、安心して使用できるのがコンタクトレンズです。